至福の読書・魅惑の世界旅行

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セビリア 「カルメン」 メリメ

・ジプシーの目は狼の目  スペインの諺

・水音をたてて流れている川には、水か小石が必ずある  ジプシーの諺

セビリアへ行かれたことがおありなら、城塞のはずれのグアダルキヴィールの岸に立つ、あの大きな建物をごらんになったに違いありません。私にはいまもまだあの工場の正門とそのそばの衛兵屯所が目に見えるような気がします。

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 ジプシーの女 カルメンに惚れてしまったのが運のつき、まじめな青年ドン・ホセは、まるでジェットコースターに乗ったかのように 坂道をころげ落ちてゆく…どころか 道から放り出される始末…合掌。ビゼー作曲のオペラ「カルメン」の原作としても有名なメリメの短編小説。あの有名なプレリュードのフレーズが頭の中で何度もこだまする。

 小説の文末にはジプシーに関する詳細な記述がある。近年 派手なテロなどの陰で殆ど話題にのぼることもないが、ヨーロッパ各地に居住する多くのジプシーと ヨーロッパ人の間には、未だそしてこの先もずっと広くて深い溝がある。詳しくは本を読んでもらった方が手っ取り早いが、ルーマニアブカレストで「ジプシー御殿」なるものを見た。ネオクラッシック様式とか幾つかある既存の様式のどれにも当てはまらない独特な建物で、しいて言うなら 西洋と東洋の折衷、洗練された建物とは言い難い外観だった。そう、ルーマニアにはジプシーの国会議員だっている。彼らに手を焼いていることはガイド氏の話でも 痛いほどよく理解できた。政府は彼らに日本で言えばUR住宅のような住居を無償提供した。しかし公共料金を払わないから、やがて電気もガスも止められた。すると彼らは木製の窓枠とかを取っ払っい、それを燃やして使用した。結果 新築住宅は瞬く間にスラムと化した。また フランス政府は片道切符を渡して追っ払っているが、暫くするとまた舞い戻って来ては、パリでスリをはたらく。 未成年の子供達にやらせている為 例え捕まっても暫くすると 釈放されて また同じことを繰り返す。 EUルーマニアに対し 何とかするようジプシー対策の補助金を捻出しているが、額も不足で根本的な解決には程遠いようだ。要するにヨーロッパ、とりわけパリやローマ等都市部を旅行する際は、ジプシーへの注意が必要不可欠、彼等は盗みのプロフェッショナル集団なのだ。

「おお ジプシーの町よ、

一度でもお前を見たら 誰がお前を思い出さずにいられよう?

わたしの額にお前を探せ 月と砂のたわむれを」

 ガルシア・ロルカ著「ジプシー歌集」

「世の中に怖いものなしという連中で、迷信以外には宗教をもたず、言語は多種多様な彼ら独自のロマニー語を使っている」

  ブラム・ストーカー著「吸血鬼ドラキュラ」

   <セビリアと闘牛とフラメンコ>

 アンダルシア地方最大の都会がセビリアだ。アラビア語で大河という意味のグアダルキヴィール川で二分され、オレンジの木や薄紫色の花が咲くジャカランダが街路樹に植えられた街並が美しい。しかし 夏は暴力的な暑さとなる。35度は当たり前、40度でも驚きはしない。観光で訪れるなら真夏は避けた方が賢明だが、暑さにはめっぽう強いと言う人なら 逆にこの時期すいているので悪いことばかりでもない。しかも冷たいサングリアやビールがより美味しく感じるというおまけ付きだ。いずれにしろ日中は熱中症の危険あり、スペインの習慣に習い 冷房の効いたホテルの部屋でまったりとシエスタ、つまり昼寝でもして 日が傾いてから再び街に繰り出すのが正解。そもそもスペインの時間的行動基準は、日本と2時間位の時差がある(実際の時差は夏時間採用時で7時間)昼食は2時頃から、夕食は20時半頃からで、テーブルが回転しない高級レストランの中には夜21時オープンという店すらある。日本ならそろそろラストオーダーの時間だ。

 そんなスペインの長い夜を過ごすのにもってこいなのがフラメンコだ。ロシアのバレエ、イタリアのカンツォーネポルトガルのファド、アイルランドアイリッシュダンス等、各国夜のエンターテイメントは色々あるが、スペインのフラメンコとアルゼンチンのタンゴは頭一つ抜き出ている感がある。とりわけフラメンコは その音楽のリズム・旋律に東洋的側面があるせいか 日本人の琴線に響く。フラメンコを見せる店をタブラオ(板張りを施した舞台の意)と呼び、セビリア規模の街には複数存在する。店の規模や内容は様々だが、HPをもつところも多く 事前に比較検討が可能。同じアンダルシアのグラナダでは変わり種・ジプシーの洞窟フラメンコも楽しめる。その内容だけで比較すれば 正式なタブラオフラメンコの方が時間も長く内容も濃い。但し 洞窟住居を見てみたい、ライトアップした夜景を見たいという方にはオススメできる(大抵の洞窟フラメンコは夜景鑑賞が組み込まれている)

 そしてもう一つは スペインの魂とも言うべき国技・闘牛だ。タブラオ同様 スペインではある程度の規模の街には闘牛場がサッカースタジアムと同じように普通に存在する。町の規模に合わせ収容人員も数百人という小さなものからマドリッドの2万人を上回るものまでピンキリだ。熱狂的ファンは相変わらず存在するし、闘牛専門チャンネルもある。しかし独立問題に揺れているカタルーニャ州等一部地域では 闘牛が廃止されて久しく、国営放送での生中継も既に廃止となった。欧米で発言力のある動物愛護協会からのクレームも影響していると思われる。屠殺と異なり一気に殺さずジワジワと痛めつける闘牛は、見る人から見れば虐待と映るのであろう。八百長問題で揺れた日本の相撲同様、伝統的競技はどこも受難の時代を向えている。