至福の読書・魅惑の世界旅行

読書の海・世界の空  海外添乗歴30年  元添乗員の読書&海外旅行案内

ワシントンDC「ソラリス」スタニスワフ・レム

・われわれは宇宙に飛び立つとき、どんなことに対しても覚悟ができている。孤独、戦闘、殉教、死ーなんでもござれ、というわけだ。…実際のところはそれだけじゃすまなくなって、結局、覚悟なんてポーズにすぎなかった、ということがわかる。…実際には、われわれの世界の向こう側には、何やら人間が受け入れられないもの、人間がそれから身を守らなければならないようなものがある。…宇宙の向こう側から真実が…突きつけられたとき、われわれはそれをどうしても受け入れられないんだ。

・…彼女は実際のところ、きみの脳の一部を映し出す鏡なんだよ。彼女が素晴らしいとしたら、それはきみの思い出が素晴らしいからだ。

・人間は他の文明と出会うために出かけて行ったくせに、自分自身のことも完全には知らないのだ。

・そんなわけで海は存在し、思考し、行動していたのだ。…どうやら私たちは歴史全体の転換点に立っているようだ…思考するこの巨人が存在している以上、もはや人間たちは知らん顔を決め込んでいるわけには決していくまい。

・…人の望みを脳から読み取っているわけだが、なにしろ脳神経の反応過程のうち意識的な部分は、わずか2パーセントだからね。…おれたち自身よりもよっぽどよく、おれたちのことを知っているんだ。

・まさにこのソラリスは、きみの言う神の赤ん坊のゆりかごなのかもしれないな…この海は…絶望する神の萌芽、発端なのかもしれない。そして、元気のいい子供らしさのほうが、まだ理性をはるかに凌駕しているのかもしれない。

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 ポーランド人作家レムの1961年に発表されたSFの代表作。その後少なくとも38の言語に翻訳され、旧ソ連とハリウッドで映像化された。

 惑星ソラリスは、ある意思をもった「海」に覆われていた。その「海」の謎を解明する為 心理学者が地球から派遣されたが、宇宙ステーションで目の当たりにしたのは変わり果てた研究者、そこから驚愕の体験が始まる。。。

 冒頭から頭の中によぎったものは、ルドルフ・シュタイナーの「アカシック年代記」あるいはユングが言うところの「集合的無意識」である。この「海」はシュタイナーがいうところの原初の地球、人類の姿を思い起こさせる。むろん個人的な見解にすぎないし、作者が地球外生物とのコンタクトを意図してこの作品を執筆したことは、著者自らの解説を読む限り 疑いようもない。しかしながら例えそうした意図をもってしても、最終的に出来上がった作品が 全く別のことを指し示す結果になった可能性はゼロではないだろう。確かにシュタイナーの主張を証明できるものは何もなく、熱帯のジャングルに迷い込んだかのように途方に暮れて、あげくのはてに途中で読むことを放棄したい気分にさせられる。しかしながら百年前に執筆された何冊もの彼の著作が、今も日本はじめ世界各地の図書館に鎮座しているという事実は重い。「アカシック年代記」次いでこの「ソラリス」の順でセットで読むと興味は尽きない。

 ところで、SF作品に欠かせない宇宙人や未確認飛行物体UFOについて、立て板に水のごとくつまびらかにした本を紹介したい。もやもやと立ち込めた霧が一瞬で雲散霧消してしまうような一刀両断ぶりが実に爽快で、思わずにんまりしてしまう。(「ムー」の編集部にも是非読んでほしい) 物事を正しく認識したその上で、SF本やSF映画を楽しみたい。

「我々が考えている宇宙人などはいません。つまり、地球上の人間に似ている宇宙人ということです。…我々が人間と呼んでいるものは、分解するとCHON(炭素・水素・酸素・窒素)と少数の無機物まで分解できます。ここでのCHONと少数の無機物というのは、地球上の構成物質のことです。特に、その「割合」によって形は限定されてくるのです。…そして、これは地球での話なのです。その話がアンドロメダ星雲や、他の星々へいけば、主要構成物質がその世界のものへと全く変わってしまうのです。ほとんどが放射性物質だったり、ヘリウムだったりもする。従って…合成されるものは全く違うものになるのです。…最初にいないと言った宇宙人とは、人間をグロテスクにしたような形の生き物のことです。そういう生き物は地球でしか生まれません。もし存在するなら地球で合成させたものです。

空飛ぶ円盤もありません。もしあれば、それは地球で作っている物です。…よく目撃者がジェラルミンの輝きとか、銀色に光っていたとか言っていますが、アルミニウムやマンガンなどからジェラルミンを合成し、利用するということは、現存する人間によって地球でしかできないのです。…実は地球というのは、非常に特殊な物質で出来ているのです。

…宇宙空間は抵抗がないのです。抵抗というのは、空気抵抗のことです。円盤の形というのは空気力学的に考えたときの、理想形になっているのです。空気力学上、最も速く遠く移動できる形が円盤の形なのです。従って空気が存在しない場所では、、円盤の形である必要はまったくありません。その空気も、地球に特有の存在なのです。…空気とは、宇宙空間の中で極めて特殊な環境条件なのです。その特殊な環境条件である空気の中を、少ない抵抗で飛行できるというためだけの理由で、わざわざ何万光年もの彼方から円盤の形にして飛んでくるはずがありません。空気がないところでは、円盤は全くの無用の長物なのです。世界中で空飛ぶ円盤の目撃者は多いようですが、それらは、何かの電気的な自然現象なのです。もし本当に円盤が飛んでいるのであれば、地球上のどこかの国が作って飛ばしているということです」

 「宇宙に遍満する生命エネルギーによって、地球上に存在する物質が集められて生命が出来たのです。その生命は、生命自身を継続的に発展させるために、宇宙に遍満する生命エネルギーそのものをキャッチしやすい形として作られたと言ってもいいでしょう。…我々は元々、遍満している宇宙エネルギーをキャッチするアンテナとして作られた物質体なのです。そして、後から作られた物質体である我々が、元々あるエネルギーを論じようとするところに、難しさがあるのです。我々は、生命エネルギーという宇宙エネルギーに対して従たる存在なのです」

  執行草舟著「生命の理念Ⅰ」

     <21世紀 宇宙の旅>

 アポロ宇宙船の時代のあの熱狂も今では遠い昔、人類の宇宙への挑戦は 19~20世紀の多くのSF作家達がかつて想像したほどには、前進していない。それどころか宇宙そのものに対する興味が減少しつつあるように思える。一昔前は外に向かっていた人類の意識も 今ではすっかり内側志向というか 無関心にすら見える。地球上に逼迫した問題が山積みなのに地球外のことまでいちいちかまっていられない、とりあえず月面に降り立ったことだし もう十分じゃないか、いや人類が持つ宇宙エネルギーの感知能力が衰えた。。。未知なる世界に漠とした憧れやロマンがあったあの時代も今は昔、時代は移りゆく。

 いずれにしろ21世紀の今でも 宇宙飛行士以外の大半の人にとって宇宙旅行は遠い夢の話だ。そんな宇宙を少しだけ身近に感じられるスポットが、米国・ワシントンDCの航空宇宙博物館だ。いわゆるスミソニアンと呼ばれる学術協会が運営する一連の博物館・美術館群のひとつである。スミソニアンの守備範囲は実に幅広く 動物園まであるので、老若男女誰でも何かしら興味のある展示が見つかることうけあい。中でも一番人気がこの航空宇宙博物館、興味ないな~という人も騙されたと思って覗いてみてほしい、本当に一見の価値が「あった」。

 市内の本館と、郊外の別館(ウドヴァー・ハジー・センター)がある。別館はダレス国際空港近郊なので乗り継ぎ時間が長く時間を持て余す場合や、夕刻~夜のフライト利用時に便利だ。(ワシントンDCには空港が全部で3つあるので注意)東京ドームの1.45倍という巨大スペースに これでもかというほどの圧倒的な数の展示が圧巻、「やっぱり米国だな」と感心することしきり。宇宙船コーナーの中央にはスペースシャトルディスカバリーが鎮座しているが、間近で見るとその巨大さに圧倒される。また日本人なら誰しも原爆を投下した爆撃機B29 エノラ・ゲイと、そのそばに多数展示された日本の戦闘機を見るにつけ 複雑な思いがよぎる。更に今はなき音速旅客ジェット機コンコルドや初期の民間旅客機などなど。

《 役立ち情報 》 日本語館内図あり、コインロッカー使用の場合25セント要(使用後戻るが両替機なし)宇宙食等いわゆる土産品販売の売店あり、飲食店はマクドナルドのみ(周囲は見事に何もない)空港から983番の路線バスが約20分おき・片道約10分、2ドル位(シニアは1ドル位)因みにスミソニアンはどこも入場無料(任意の寄付は募っている)

 一方 市内の本館は月面探索機アポロ11号や「月の石」から 日本のゼロ戦までコンパクトながら 少数精鋭の展示となっている。(注 : 現在 長期の修復に入っており 従来の展示全てを見学できる状態にない。HP等で進捗状況を確認することをお勧めする)

 ワシントンへDCへは日本からANAの直行便がダレス空港に就航、ハワイやロサンジェルス辺りと違い 入国時に長い行列に並ばなくて済むという、それは地味ながら抜き差しならない大変大きなメリットである。首都という土地柄ゆえ 国家公務員の割合が高い街には、テレビのニュースやハリウッド映画でもおなじみのホワイトハウスに、リンカーン記念堂、ケネディ家のお墓のあるリンカーン国立墓地等 連邦政府の直轄地らしく、観光地ではないけれども 観光客が訪れる事実上の観光スポットが複数存在する。かつて日本から寄贈された桜も今のところ健在だ。(現地ガイド氏の話によると、近年ポトマック川の水位が上がって危機に直面しているらしい)

 マニアックな人には、更にヒューストン宇宙センターやフロリダ州ケネディ宇宙センターもあるが、同じ東海岸のニューヨーク辺りと組み合わせた方が、万人向け。

 尚、日本国内なら岐阜の航空宇宙博物館へ。小松空港そばの航空プラザはかなり残念な展示内容なので、空港の屋上で自衛隊の戦闘機の離着陸訓練を見学した方がよっぽど楽しめる。