至福の読書・魅惑の世界旅行

読書の海・世界の空  海外添乗歴30年  元添乗員の読書&海外旅行案内

ロッキー山脈・北米「レヴェナント蘇えりし者」マイケル・パンク

・人の成すことには潮時というものがある。うまく潮時に乗りさえすれば、運が開ける…

・…じっとしていては幸運などやって来ない。翌朝になったら、また前に向かって這いはじめよう。もし幸運が向こうからやって来ないなら、自分で幸運を作り出すために全力を尽くすのだ。

・これは報いなのだ。自分に抵抗する資格はないと思った。

・…いま少年の顔を目にすると、用意していた演説の細かい内容が思い出せなくなっていた。意外なことに、哀れみと尊敬の入り交じった不思議な感情がわき上がった。

・「いまのあなたにはわかっているはずです。ものごとがつねに納得のいくように運ぶとはかぎらないんですよ」

・「耳の聞こえない者とは、耳を傾けようとしない者のことだ。あなたは何のために辺境まで来たのですか?…けちな泥棒を追いかけるためですか?一時的な復讐で満足を得るためですか?あなたにはもっと別の目的があったのではないかと思いますが」

・星や空に驚嘆し、自分の小さな世界とはくらべものにならないその広大さに元気づけられた。やがて…それまで眠れなかったことが嘘のようにすぐに眠りについた。

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 レオナルド・ディカプリオ主演「レヴェナント・蘇えりし者」の原作で実話を元にしたフィクション。レオナルド・ディカプリオはこの作品によって念願のアカデミー賞主演男優賞を受賞した。

 1820年代の米国、主人公のグラスは森でグリズリーベアに襲われて瀕死の重傷を負う。彼は同僚達に置き去りにされ、更に彼の世話をする為に残された2人の仲間からも見捨てられる。しかし奇跡的に生き延びたグラスは、報復の旅へと突き進むのだった。

 熊に襲われ死線を彷徨ったグラスにその後も苛酷な大自然との壮絶なサバイバル、白人対インディアンの相克、次々と試練が襲いかかる。しかし白人側にもインディアン側にも複数の死者が出る中、グラスは都度生き抜いてゆく。その生死を分けたものは一体何だったのか?単なる偶然?運が良かっただけ?…事故を起こした飛行機に乗り遅れて間一髪助かった人、あるいはその逆に亡くなった人。あらゆるケースに当てはまる人の生死を分かつもの、それはひとえに生命力の違いではないか。生命力に満ち溢れていればインディアンの放った矢はすんでのところで外れ、あるいは致命傷には至らない、逆に生命力が不足すれば矢が命中して命を落とす。そしてすべからく人の生命力はやがては尽きる。最後身体から完全に生命力が抜け出た状態、それが人の死だとするなら、その生命力を完全燃焼させること、それこそが我々がこの世に生れた唯一の目的かもしれない。

「我々は、生命エネルギーによって生かされている。…ただ一度の人生を生ききるには、当然、危険もあり、苦悩と失敗もある。…生きることの真の意味が闘争にあり、その終着に死がある限り、生命エネルギーは本質的に暗い。または悲しいと言ってもよい。…暗さの是認は、病気、けがなどをむやにやたらと嫌がらないことにも繋がる。病気によって逆に生きる力が強まることは多い。けがによっても生命エネルギーの凝縮の仕方がわかることがある。自分の生命の有難さが思い知らされるからに他ならない。…事実、生きがいのある人生を送った人は病気、けがなどを乗り越えてきた人が圧倒的に多い。…肉体にとって危機が訪れたとき、生命エネルギーは凝縮する。生命エネルギーの凝縮は、不撓不屈の精神を生む。不撓不屈とは、自己の内部で、生命エネルギーが燃えさかることを言う」

  執行草舟著「生くる」

自分を見捨てた仲間に報復を誓ったグラスの内部では、生命エネルギーの炎が赤々と燃え続け、生き抜く力となったに違いない。そして彼をもっと根本の深いところから支えたものが何であったのかを考える。

「死ぬとは風の中に裸で立ち 陽の中に熔けることではないか」

  神谷美恵子訳「ハリール・ジブラーンの詩」

 

   <カナディアンロッキー

 ロッキー山脈は南北4800㌔に渡り北米大陸西部を貫く山脈で、北部のカナダ部分がカナディアンロッキーと呼ばれる。現地ガイド氏によると、この映画のロケは主にカナディアンロッキーで、一部はアルゼンチンでも撮影されたとの事、いかにも広大な土地と大自然を必要とする映画にはカナディアンロッキーは最適な土地だ。古くはマリリン・モンロー主演の「帰らざる河」、角川映画天と地と」の撮影、あるいはその美しさから車のCMにも複数登場している。

 カナダの観光はカナディアンロッキーに始まりカナディアンロッキーに終わると言っても過言ではない。何度行ってもその都度良く、悪天候なら悪天候なりに、むろん快晴ならより素晴らしい。観光のハイライトは雪上車観光、つまり氷河の上に降り立つというものだ。そしてその雪上車観光の起点となるレストランの無料の水が、普段お金を払って飲んでいるペットボトルのミネラルウォーターを上回る美味しさであることをこの場をかりてお伝えしたい。またレイクルイーズ辺りのホテルで湯船に浸かれば全身デトックス状態の至福の時間、その心地良さは筆舌に尽くしがたい。これら氷河の溶け水を浄化した純度の高い水を是非味わって頂きたいと、心の底から思う。(ニュージーランドマウントクックも同様に素晴らしい水で甲乙つけ難い)唯一残念なのは食事だが、まあ山の中では仕方がない。カナダの食事は海の幸が豊富なバンクーバーやフランス料理のケベック州が断然美味しく期待できる。カナディアンロッキーのご馳走は、水と空気とその景色にある。

 北緯50度より北(樺太と同じ位)標高1000~2000m、例え真夏の旅でもウルトラライトダウン程度の防寒具必携、紫外線が強いので日焼け止めとサングラス、そして雪上車観光用に滑りにくい靴(ハイキングや乗馬とかしない限りウォーキングシューズ程度で十分…遺跡見学ではないのであまり歩かない、写真ストップが大半)