至福の読書・魅惑の世界旅行

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ケニア「キリマンジャロの雪」ヘミングウェイ

そこには視界のすべてを覆って、世界と同じほど広く、高く、巨大で、陽光を集めて無窮の白さを放つものがあった。

キリマンジャロの頂きだった。

その時かれは自分が向かっているのがそこであることを知った。

   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 代表作「老人と海」の数分の一程度のページ数ながら、夢かうつつかそのその淀みのない筆致により強い印象をもたらす名作。…詳細を書くと即ネタばれとなるほどに短い 超短編なので、とにかく読んでみてとしか書けません、以上。

  <ケニアと究極の娯楽サファリ>

 アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロは 富士山より2,000m以上高い5,895m、一見してそこまで高く感じないのはふもとが既に1,000mを超す標高のせいもある。この山はケニアとの国境に近いタンザニア北西部にあるが、ケニア・アンボセリ国立公園付近から見る景色が最も美しいと言われており、実際その通りだと思う。初めて見た時のことを今でもよく覚えている。訪れる第一の目的はもちろんサファリ、つまり野生動物を見ることだが、地平線から上る、もしくは沈む巨大な太陽と アフリカの雄大な景色というおまけがもれなく付いてくる。

「その荒野はとてつもなく広かった。知識としての面積のことではない。実感として広かった。ケニアの話である」

  西江雅之著「東京のラクダ」

  言語学者で旅の達人でもあった西江雅之氏曰く、サファリとはもとはアラビア語の“旅”を意味する語からきたスワヒリ語の単語だそうだ。しかしスワヒリ語の意味するところは、ちょっとそこまでという程度から、何カ月も家を留守にする長旅まで、幅広い、とにかく”どこかに行って来る”という意味だそうだ。これが英語になると、観光客が行う狩猟を意味し、近年では銃によるサファリからカメラサファリに変化し、日本ではサファリといえばこのカメラサファリを指すのが一般的だ。

 初めてサファリを体験した時、仕事を忘れ心の底から楽しんでいる自分がいた。そしてその思いは2度目も変わることはなかった。動物を見て何がそんなに面白いのか、動物園に行っても同じだろう、そう思う人も決して少なくはないだろう。しかし、行けばきっとわかるはず、その考えが全く誤っていたということを。かつての自分もそうだった。動物園の動物たちはもはや野生を失った家畜、ペットである。野生動物の屹立した生命力には、現代人の失いかけた生きる力を呼び起こす作用があるように思えてならない。そうでなければ野生動物を見てあそこまで興奮し夢中になる理由が見つからない。とりわけ狩りに向かう途中のライオンやチーターやヒョウ達のしなやかで凛とした佇まいはいつまでもいつまでも見ていられる。日本からケニア迄ははるか遠く旅行中もハワイのような快適さからは無縁だが、それらデメリットを差し引いたをところで依然としてサファリは究極の娯楽だ。

「人間が、ともすれば動物礼賛になるのは、動物を通して人間の中にある高貴なる野蛮性を見るからです。しかし、それは人間精神の中にある『生き切る』部分がそうさせているのです。…動物の行動を見てそこに燃焼や躍動を感ずるのは、我々が人間だからです。…人間が人間の生の躍動を投影しているだけです」

  執行草舟著「生命の理念Ⅰ」

 

「アフリカの奥地での楽しみの一つは、夜、戸外に出て、空を見上げることだ。そのとたん、幾千もの星々のまぶしいばかりの輝きに目を奪われ、畏敬の念に打たれる。こうした村に暮らすアフリカ人には、さぞかし宇宙は身近なものに感じられるに違いない」

ジョーゼフ・B・マコーミック著「レベル4」

当地は雨季と乾季に分かれる。当然 雨季は雨雲で星空は見えにくいので念のため。

 

「…ナイロビから北西に向かってケニア高地に入り、アフリカの空に頭突きを食らわせている緑の丘陵をのぼってゆく。しばらく小農場やシーダーの森の間を進んだその道は、やがて上り坂の頂点に達して宙に飛びだしたかと見る間に、黄色い靄のたちこめる盆地に下降してゆく。その盆地がアフリカ地溝帯だ」

リチャード・プレストン著「ホット・ゾーン」

ケニアには地球の割れ目である大地溝帯グレート・リフト・ヴァレーの一部が国土を横切っている。レバノンからケニアを通りモザンビーク迄地球の円周の約1/6という半端ない距離だ。地球の地殻変動の時代の痕跡である。本格的な調査を初めて行った英国人の博物学者が生前「いつの日か、この谷間は月の世界から見えるだろう」と言い残し、その後アポロ17号によってそれが証明された。実際に目の前で見たところで規模が大き過ぎて余りピンとこない。そういう意味では米国のグランドキャニオンと似ている。空から鳥瞰した方がわかりやすいスケールの大きなスポットだ。

 玄関口は首都ナイロビ、ケニアウガンダ鉄道の建設の為の荷物集積所に端を発した町である。標高1,700mでほぼ赤道直下、肌寒くそして暑い、空港からそのまま4WDのサファリカーに乗り込んで、排気ガスと土埃にまみれながら国立公園への長いドライブが始まる。…ケニア・キクユ族の話「あなたはいつまでたっても休ませてくれない友人と旅を続けている。その友人とは?」…その答えは「道」だ。