至福の読書・魅惑の世界旅行

読書の海・世界の空  海外添乗歴30年  元添乗員の読書&海外旅行案内

世界一周 「八十日間世界一周」ヴェルヌ

・今回の旅でいちばん難しいのは中国と日本で、そいつが終わってしまったんですからね。あとはもうアメリカまで行けば、ヨーロッパみたいなものです。たいしたことはありません。

・鉄道は文明と進歩の象徴であり、網の目のように荒野に広がって、これから建設される町を結んでいく道具なのである。…汽笛を鳴らしていくだけで、アメリカの地に新しい町を次々と誕生させていくのだ。

・…この旅が愉快でしかたがなかった。…この陽気さはすぐにまわりの者に伝染し、しばらくするうちに誰もが上機嫌になった。…もう過去の失敗は悔やまなかった。不測の事態や危険も心配しない。ただ、目的の達成だけを考えた。

・人はたとえ、まったく意味がなくても、世界一周をするのではないだろうか?

   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 舞台は1872年ビクトリア朝時代のロンドン、英国紳士のフォッグ氏は彼自身が八十日間で世界一周できるか否かをめぐり、友人たちを相手に大金を賭ける。賭け金は彼の財産のちょうど半分、世界一周の旅費に残りの半分も使うとすると、彼は例え賭けに勝っても財産が増えることはなく、ましてや負けた場合は一文無しになってしまう…にも拘わらず彼は粛々とを準備を整え瞬く間に旅をスタートさせる。何しろ今から150年も昔のこと、飛行機を乗り継いで…という訳にはいかない時代の話しである。

 まずはロンドンのチャリング・クロス駅から列車で南に向い、ドーバー海峡対岸のフランス・カレーへ船で渡り、そこから再び列車でパリを経由しイタリア・アドリア海側の港町ブリンディシまで移動、そしてブリンディシとインド・ボンベイを結ぶ定期船に乗船、スエズ運河を抜け洋行遥かインドを目指す。ボンベイに到着後は東のカルカッタまで列車で行くはずが、途中インドならではの理由で象で移動するハプニングが勃発、マラッカ海峡を抜けシンガポール経由で香港に向かう船に乗船できたのは奇跡的だった。更に香港からは横浜経由でサンフランシスコに向かう船に乗船のはずが、またまたトラブルに巻き込まれて乗り遅れてしまう。そこで彼は小さな船をチャーターし乗船予定であった船の経由地・上海を目指す。フォッグ氏の機転によってかろうじてアメリカ行きの船に乗船できた一行は長江を下り東シナ海に出て長崎、そして横浜を経由して無事サンフランシスコに入港、その後は鉄道で米大陸横断しニューヨークへ。そして最後の船旅で大西洋を横断、英国・リバプールに上陸後、鉄道で向かう先は出発地であると同時にゴールでもあるロンドン。はたしてフォッグ氏は80日以内にロンドンに戻ることができたのか。

 なんとも爽快・愉快な物語である。様々なハプニングをものともせず、ただひたすら目的地目指して前進あるのみの旅、現代の観光旅行にはない旅の醍醐味に心躍らされる。また、どこかドン・キホーテとサンチョ・パンサの関係を彷彿させる主人公フォッグ氏と召使いパスパルトゥーの関係が微笑ましくもあり羨ましくもある。

「フォッグ氏が名誉を大切にするイギリス人だとわかって共感を覚えたのだ。…この男は名誉を守るためだったら、本気で決闘する」

名誉のためなら臆することなく決闘を即決してしまう英国のジェントルマンというのは一体どのような人達だったのか。

「19世紀は、まだすべてがおかしくなる前の、ヨーロッパが一番すばらしかった時代だったのです。もっともすばらしかった時代というのは、すべての人間が『コンプレックスを持っていた』ということです。皆が自分自身の中に歯止めの心を持っているということなのです。…そういう社会で一番すばらしかったのが、あのヴィクトリア朝と呼ばれた英国なのです。一番社会が爛熟していたときの英国なのです。…英国人は、英国キリスト教ジェントルマンというものを築き上げた。…命を張って生きる英国のジェントルマンです。このジェントルマンを生み出した思想が、キリスト教と騎士道の精神なのです。…清教徒が生きている時代にはカトリックの人も、清教徒的だったということなのです。そして、その人たちが一番重要な思想として挙げたことが『心の自由』であり、その思想が結実したものが19世紀の英国ジェントルマンなのです。だから19世紀の偉大なイギリスというのは、偶然生まれたのではない。この清教徒の思想が生み出したのですが、この人たちが一番重要視していたのは、…心の自由のために命をも投げ捨てるという民主主義的思想なのです。…八十日間で世界一周すると皆に約束して全財産を賭け、命がけでやって達成するのですが、要するに自分が言った約束に、命と全財産を賭けるというのが英国ジェントルマンなのです。今の日本人にそれができる人がいるかを問いたい。…英国が世界を制覇できたのはどうしてかというと、この「約束は死んでも守る」というのを、国家ぐるみでやっていた国だったからです」

  執行草舟著「現代の考察」

こうした英国ジェントルマンが19世紀以降もずっと健在であったなら、英国はきっと今でも世界を制覇し続けたかもしれない。

 

   <空の旅・船旅>

 島国である日本から外国旅行に行くという時に、車や列車で行くという選択肢がほぼないことは言うまでもない。その点、陸の国境を持つ国の人は車での海外旅行が容易である。ヨーロッパの人々は夏のバカンスシーズンになると自家用車に沢山の荷物を積み、今ではほぼノンストップで通過できる国境を超えていともやすやすと海外旅行を楽しんでいる。もちろん鉄道や飛行機を利用する人々もおり、選択肢は豊富だ。

 一方の日本はその手段はほぼ飛行機か船に限定される。コロナ騒ぎが収束以降 連日のように大型客船が日本各地の港に入港し、船旅はほぼ復活したかのようにも見える。しかし日本発着のクルーズは目的地が自ずと限定されてしまう。遠くに行くには世界一周のような長旅となり、潤沢な予算と時間を必要とする為 残念ながら一般的とは言えない。

 すると選択肢は空の旅一択となる。機内食を食べ、映画を観て少し眠り、また機内食を食べる…のも決して悪くはない。ましてや昔のように前方スクリーンで映画を上映していた時代、喫煙席があった時代からすると隔世の感がある。とりわけ昔に比べて機内エンターテイメントの充実ぶりは半端ない。むろん航空会社による違いが少なくないので欧米等 遠方に出かける時は慎重に選びたい。なぜなら2023年現在ウクライナ問題によりシベリア上空を飛べない状態が継続、ヨーロッパ各地へはプラス2-3時間を余儀なくされている。正直なところ個人的にこの違いはとても大きいと感ずる。単純に片道11時間だったところが、13-14時間かかるのだから。

 ひとまず航空会社が決まったら次は席である。飛行時間が長ければ長いほど席が重要視される。近年は足元の広い席、つまり壁の前のバルクヘッドや出入口前の席を差額を設けて有料とする航空会社が大半となったが、とてもフェアだと思う。但し個人的にこれらの席は好まない。まず肘掛が固定で上がらない為 万が一隣席が空席だったとしても肘掛を上げて寛げない。更に離着陸の時に小さなショルダーバックとかでも上の荷物棚に入れることを強要される。安全上の理由なのでどの航空会社でも洩れなく同じルールである。荷物を入れたり出したりするのは思いの外面倒なのだ。以上二つの理由から意外にも一部の旅慣れた人は選ばない席だったりする。一度EXIT席に座った時は途中寒くて仕方がなかったが、満席で毛布の予備もなく身体の芯まで冷え切ったこともあった。更には出入りしやすい通路席も有料にしている航空会社も増加傾向だ。要するに通路席の希望者が多いということ、誰しもWCに行きたい時にすぐ行ける席に座りたいのだ。細かいことを言えば窓側でも窓のない席やリクライニング出来ない席など色々あるが、今は事前に色々調べる術があるので気になる人・拘る人は自分で調べることをお勧めする。但し調べたところでパッケージツアーに参加の場合は一部を除き席は選べないので潔く諦める or 当日チェックイン時にダメもとでトライしてみる等してみよう(責任はもてないのであしからず)

 また座る列によっては稀に機内食が選べない場合があるけれども、これはもう潔く諦めるしかない。機内食サービスを始める前に必ずアナウンスされている通り、搭載数には限りがあるのだ(全ての肉がダメという方は、事前にベジタリアンメニューをリクエストをするのも一つの方法ではあるけれども、経験上 余りオススメはしません…)

 いずれにしろ、コロナ騒ぎが収束したと思ったら、今度は極端な円安にウクライナ問題…海外旅行の受難はまだまだ続く。