至福の読書・魅惑の世界旅行

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アントワープ「フランダースの犬」ヴィーダ

・パトラシエ(パトラッシュ)の胸に大きな愛が目ざめた。それは命あるかぎり一度もゆるがなかった。しかしパトラシエは犬なので、ただ、恩に深く感じていた。

・‥犬はあまりの悲しさにそのそばに横たわって死んでしまいたかったが、子供が生きていて、自分、パトラシエを必要とする間は負けて倒れてはならなかったのだ。

・彼は自分が路傍の溝で病気で死にかかっているのを老人と子供に発見されたあの過ぎさった昔を忘れなかった。

・この世に生きながらえるよりもふたりにとって死のほうが情け深かった。愛には報いず、信じる心にはその信念の実現をみせようとしない世界から、死は忠実な愛をいだいたままの犬と、信じる清い心のままの少年と、この二つの生命を引きとったのである。

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 日本ではTVアニメであまりにも有名な少年ネロと愛犬パトラッシュの物語。アニメはもちろんのこと実写版の映画でも主人公はネロ少年だが、原作はどちらかというと「犬」の存在が大きい。そもそも本のタイトルが、フランダースの「犬」なのだ。「恩」に報いようと懸命に生きるその姿はまさに武士、忠犬ハチ公以外のなにものでもない。

 原作は英国人の女流作家による。新潮文庫では併せて「ニュルンベルグのストーブ」が収められているが、こちらはスカッとするハッピーエンドの物語。いずれも少年少女文学に分類されるが、大人が読むに耐えうる良書。

 話しの舞台はベルギーのアントワープ、ベルギー出身の作家が書いたあまりにも有名な本に「青い鳥」がある。同様に子供向けのようでありながら奥が深い。

「…どうして死んでしまっているものかね。お前たちの思い出の中で立派に生きてるじゃないか。人間はなにもものを知らないから、この秘密も知らないんだねえ。…死んだ人でも、だれかが思い出しさえすれば、生きてたころと同じように幸福に暮らしてるんだということ…」

「…あの鳥青いよ。だけどぼくのキジバトだ。でも、出かける前よりずっと青くなってるよ。なんだ、これがぼくたちさんざんさがし回ってた青い鳥なんだ。ぼくたち随分遠くまで行ったけど、青い鳥ここにいたんだな」

  <ザ・グルメ・カントリー>

 「フランダースの犬」の舞台はベルギーのアントワープ。物語の中でも登場するように画家ルーベンスの活躍した町だ。しかしこの町で最も印象に残っているのは、花より団子、屋台のフライドポテトだ。冷凍でない生のじゃが芋を揚げたフライドポテトは目から鱗の美味しさであった。因みに日本や米国ではフライドポテトにケチャップだが、ベルギーやオランダではマヨネーズ、英国はビネガー(酢)、フランスは塩が定番、所変われば…である。

 そう、ベルギーは知る人ぞ知るグルメの国である。首都ブリュッセルの一人当たりのレストランの数は世界一とも言われているし、ミシュランの星付きレストランの数もフランスより多い。フランスよりレストランの平均的レベルが高く外れも少ない。代表的なムール貝の白ワイン蒸しは日本人好みのメニュー、ワ―テルゾーイというチキンのクリームシチューも同様だ。しかし個人的に最もオススメしたいのは、チコリのグラタンだ。白菜にも似たチコリの旬は秋から冬の為、夏場に訪れると食べられる店はかなり限られてしまう。初夏の白アスパラや秋のジビエも季節限定メニューだが、小エビのトマト詰めやコロッケ通年メニューも豊富にあり、何しろ美味しいものが多数存在するので季節を問わず一年中楽しめる。スイ―ツにサクサクした食感のベルギーワッフルははずせないし、チョコレートが有名な国だからチョコレートムースも捨てがたい。余り知られていないけれどもブドウパンもオススメ。ホテルの朝食に並んでいることが多い。ベルギーの食は奥が深い。

 飲物ではサクランボとかイチゴとかフルーティなビールでも知られている。ドイツ人やチェコ人からすると邪道と言われそうなビールだし、正直 チェコやドイツのビールの方が美味しい。しかしそれは数あるビールの一部であって、最も一般的に飲まれているのはドイツと同じピルスナ―タイプの普通のビールだ。

 食べ物のことばかり書いてしまったけれど、ベルギーの見どころ?それはもちろんブリュッセルのしょんべん小僧だ。確かに間違いなく見どころではあるが、実は世界三大ガッカリの1つと言われている。なぜガッカリなのか?それはその大きさにある。ガイドブックの写真を見るとそれだけがアップになっている為 実際の大きさがわかりにくい。従って頭の中で勝手にもっと大きなものを想像してしまうのだろう。実際に実物を目の前にすると多くの観光客はその小さなサイズに拍子抜けしてしまうのだ。そしてそれと同じことが、コペンハーゲンの人魚の像とシンガポールマーライオンにも言える。ヨーロッパに限定すればマーライオンにとって代わりライン川クルーズのローレライの岩が登場する。なぜならそれは何の変哲もないただの崖なのだ。しかし!である、最初からガッカリすることを期待して見に行けば、それはもうガッカリではなく期待通りと言えませんかね、詭弁かもしれませんが。少なくともこれを読んでどの位 小さいか見に行きたくなった人がいるんじゃないですか…思い立ったら吉日です。