至福の読書・魅惑の世界旅行

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ラ・マンチャ地方「ドン・キホーテ」セルバンテス

・あくまでも重要なのは真理であって、その母たる歴史は時間のライバル、出来事の保管所、過去の証人、現在の手本にして教訓、そして未来への警告なのである。

・運命というものは、人をいかなる災難にあわせても、必ず一方の戸口をあけておいて、そこから救いの手を差しのべてくれるものよ。

・…「強欲は袋を突き破る」と諺に言うように、どうやらおいらの希望も欲のために引き裂かれちまったらしいや。

・…諺というものは実によく真実を言い当てるものだと、わしはつくづく思うぞ。いずれも、あらゆる学問の母ともいうべき経験から引き出された格言であってみれば、真実であるのが当然かもしれぬ…

・…この世に、失った自由を回復するほど大きな喜びはありませんからね

・…感謝の念も、ただ心の中で思っておるだけのものであれば、それは実践のない信仰と同じで死物に過ぎぬからでござる。

・美徳というものは、どこにあろうと、それが際立てば必ず迫害されるものだということをな。歴史に名を残した英傑で、悪意による中傷を受けなかった者などほとんど、いや一人もいないと言ってよいのじゃ。

・この全人類の敵がつねに求めているのが、ほかならぬ魂だからの。…すべての瞬間や時代を知るというのは、ただ神のみに許されたことであり、神にとっては過去も未来もなく、すべてが現在だからである。

・…この世で起こることは、良いことであれ悪いことであれ、決して偶然に起こるのではなく、すべて天の個別的な摂理によるものだということじゃ。…わしの運命もわし自身がつくり出したわけだが、どうやら必要なだけの慎重な配慮を欠いていたようだ。

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誰もがその名を知る世界的名著とはいえ 岩波文庫で前篇・後編各3巻ずつ計6冊、最後まで読み終えた人が巷に溢れているとは言い難いボリュームの本である。自身3度目の挑戦で読み終えた。

約150名の男性と50名ほどの女性が登場し、文中の登場人物自らが「今日までに世に出た最も楽しい、しかも最も害のない読み物」と言わしめる。害がないという点において 恐らくそれは事実であろう。登場人物に悪人はほぼいない。

各所に諺が散りばめられているのも特徴のひとつ。岩波文庫の訳注によれば、サンチョ・パンサひとりで159回もの諺を発し、小説全体では204の諺が計256回用いられているらしい。主人公のドン・キホーテ曰くサンチョ・パンサは「単純で素直な性格と誠実な人柄」だそうだが、3度の飯の次に好きなことは、間違いなく諺を発することであろう。

一方主人公ドン・キホーテは、正気の時と騎士になった気でいる時の振り幅が途轍もなく大きいのだが、一貫して騎士道精神に裏打ちされたその人柄は除々に読者の共感を呼ぶと同時に、ある種の哀愁すら感じさせる一本義な人物だ。うまく表現できる言葉が見つからず もどかしいが、読み終わったあとで どこか切なく、それでいてほんわりとあたたかいものに包まれる。名著とはこういう本のことをいうのだろうと思わせる本である。騙されたと思って是非 挑んでみていただきたい。その価値はある。

「一体狂気とは何か。現実のみを追って夢をもたぬのも狂気かもしれぬ。夢におぼれて現実を見ないのも狂気かも知れぬ。しかし、最も憎むべきは、ありのままの人生に折合をつけて、あるべき姿のために戦わぬことだ」

   ラ・マンチャの男より

「どんなに穏やかに整合的に見える人生にも、どこかで必ず大きな破綻の時期があるようです。狂うための期間、と言っていいかもしれません。人間にはきっとそういう節目みたいなものが必要なのでしょう」

  村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 作者セルバンテスシェークスピア1616年4月23日、同じ年同じ日に他界したと言われている。しかし当時のスペインは既にグレゴリウス歴を採用していたのに対し、英国ではまだユリウス歴を使用していたため 厳密にはふたりの文豪が他界したのは10日程の間があるらしい。が、そんな些細なことはどうでもよい。2人が共に性格描写のコツを心得ていた数少ない作家であることは疑いようがないのだから。

   <ラ・マンチャ地方について>

スペインの中で最も荒涼とした土地。そもそもスペインの風景は神がおそらく若いときに、絵筆の使い方や石の積み方もろくに知らないころに描いた、と言われている。

スペイン市民戦争で銃殺されたスペインの国民的詩人ガルシア・ロルカは「燃える野に沈む、眠そうなオリーブの木々」とうたい、

フランスの詩人は彼のことを

「貧しい人びととコオロギたちのドン・キホーテ」とうたった。

 to be continued