至福の読書・魅惑の世界旅行

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プラハ 「ロボット RUR」カレル・チャペック

・…科学を用いて、神を引きずり下ろそうとしたのです。度を超えた唯物論者で、だからこそ、ありとあらゆるものを作り出したのです。どんな神も必要としないことを証明したかっただけなのです。

・…そうやって人間なるものを捨て、ロボットを作ったのです。…ロボットは人間ではありません。我々より完璧な機械であり、驚くべき理性的な知能を備えていますが、魂というものがないのです。

・…人間は自分が愛することだけをするのです。完全に近づくためだけに生きるのです。

・これは世界の終わり。悪魔のように傲慢になって、主と同じように創造しようとしたからです。神を信じようとしないばかりか、自分が神になろうとするとは何という冒涜でしょう。神が楽園から人間を追放したように、今度は人間が全世界から追放されるのですよ。

・「ねえ、何か起きているの?」 「いえ、何も。進歩だけです」

・「何が不安なの?」 「この進歩というものすべてです。眩暈がするほどに」

・まったく、人類の黄昏だ!…私は享楽主義者になりつつある。

・…私たちは罪を犯した!自分たちの誇大妄想のために、何かの利益のために、進歩のために、何か偉大なもののために、私たちは人類を殺めたのだ!それで、その偉大さのせいで破滅するのだ!

・「ロボットは生命ではない。ロボットは機械だ」 「私たちは機械でした。ですが、恐怖と痛みを覚え、私たちは変わったのです」 「何に?」 「魂になったのです」 「私たち自身と格闘する何かになったのです。私たちの中に何かが入ってくる瞬間があります。私たちの中に、自分のものではない考えが入ってくることがあります」

・…この恐ろしい機械崇拝は止めることができない。…産業を支配していると思っている者は、実際にはそれに操られているのである。…人間の脳が生み出したものは、しまいには、人間の手におえないものとなってしまった。これこそが、科学についての喜劇である。

   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 題名でもある「ロボット」という言葉の生みの親となったチェコの作家 カレル・チャペックの戯曲本。氏は「園芸家12カ月」のようないたってのどかで平和な本を執筆する一方、この戯曲では人類滅亡の未来を予言している。今からおよそ百年前、1920年のことである。

 かなり長い引用だが 人類の滅亡とロボットに関連するひとつの意見を紹介したい。日本人のみならず殆どの現代人に当てはまる厳しい現実、紛れもない事実を突きつけられる。もう後戻りすらできないところまで来てしまったそうだ。さあ、これからどうする。

「…純粋の科学の力を持っているスーパーコンピューターとAI(人工知能)ロボットは、1973年以来その多くが人類の滅亡を予言している。

人間の終焉は、静かに平和にそして幸福にやってくる。我々が望むように、権利を与えられ幸福を与えられながら、楽しくやってくるだろう。それが家畜になるということの意味である。我々はAIロボットの家畜としての生命を与えられ、幸福で安楽に暮していくだろう。いまの人間が死ぬわけではない。AIロボットが人間としての働きをするようになって、その家畜として餌をもらいながら生きる。人間の魂が抜けてしまったら、別に餌さえあれば幸福なのだ。そして趣味とスポーツ、娯楽と旅行というところだ。

…現代人の考え方は、AIロボットがすべて仕事をして、人間は遊んで暮らすことを夢の世界としてのユートピアだと思っている。…それが人間の死だとわからない。…人間ならそのような暮らしに耐えられるはずがない。…人類とはいろいろなものに挑戦して失敗し、愛のために苦悩し、使命のために死ぬ存在だと私は叫び続けている。

ヒューマニズムと人権が独り歩きをしてしまい、あまりのもこの世を覆ってしまった。このヒューマニズムを乗り越えることは、もう現行の人間にはできない。AIを見れば、その全ての答えはヒューマニズムを軽視している。

ヒューマニズムに生きている人間はすべて、AIの家畜になるだろう。これはまさに、宇宙的な逆説である。ある意味では、エネルギー保存の法則通りと言える。人間大事、人間第一と思っていると、却って家畜に堕ちるということになる。…人間というのは宇宙の法則に則って生きている存在なのである。…宇宙がすべての中心である。そして人間は、その「魂」を除いてはどうでもいい存在なのだ。それが昔の人が言った「神が中心」ということだろう。神に創られたのが人間であり、それを忘れたのが現代のヒューマニズムと言えよう。

…自分の魂の故郷に戻るのである。水平の現代を捨てるのだ」

  執行草舟著「脱人間論」 

エルサレムの聖地までが家畜の飼育場となる」

「終生、死と対話しつづけた作家マルローは…最後の美術論、「非時間の世界」の結語をこのようにむすんで世を去りました。『非時間の世界も、また、永遠ならず』と。人類文明は更新する、というのです」

  竹本忠雄著「ノストラダムスコード」

「魂」の抜けた現代人の「餌」のひとつである旅行を生業とする者として、耳が痛い。

最後にディストピア小説の名著といわれる本の会話の一節を紹介しておきたい。

「快適さなんて欲しくない。欲しいのは神です。詩です。本物の危険です。自由です。美徳です。そして罪悪です」

「要するに君は…不幸になる権利を要求しているわけだ」「ああ、それでけっこう…僕は不幸になる権利を要求しているんです。…もちろん、老いて醜くなり無力になる権利、梅毒や癌になる権利、食べ物がなくて飢える権利、シラミにたかられる権利、明日をも知れる絶えざる不安の中で生きる権利、腸チフスになる権利、あらゆる種類の筆舌に尽くしがたい苦痛にさいなまれる権利もだね」長い沈黙が流れた。「僕はそういうもの全部を要求します」「まあ、ご自由に」

  オルダス・ハクスリー著「すばらしい新世界

    <ビール天国>

 百塔の街とも東欧の真珠とも呼ばれるチェコの首都プラハ。それはある意味 巨大な空間の化け物みたいなラスベガスの対極にある街だ。あくまでも人間の縮尺にあった旧市街の街並は、長い歴史に培われた奥行きと陰影が訪れる人を引きつけてやまない。2度の大戦の被害を免れた旧市街は、丸ごと世界遺産に指定されている。そしてそれはプラハ城内の黄金の小路に残る かつてカレル・チャペックが住んでいた家や、彼が歩いた石畳が今でもそのまま残っていることを意味する。更にパリやブリュッセル同様に複数のアールヌーボー建築が街のアクセントになり、その美しさを際立たせている。そんな旧市街を歩きまわるのは、草臥れはするものの同時に楽しい時間でもある。

 そして歩き疲れて一休みするのにもってこいのカフェやビアホールが、市内あちこちにある。チェコと言えば、なにはともあれビールだ。何しろ1人当りのビール消費量が、昔から現在まで常に世界トップに君臨し続けている国なのだから。現在世界的に飲まれているピルスナータイプのビール発祥の地がチェコピルゼン、そしてチェコで最も出回っているのがピルスナー・ウルケルという銘柄のビールである。仕事柄世界各地のビールを色々飲んだけれども、これが最も美味しいと思う。ヨーロッパでは他にもアイルランドの黒ビール・ギネスや、英国の各種エール、ベルギーのトラピストビールにカクテルのように甘口のフルーティなビール、ドイツの白ビールにスモークビールetc…多種多様なビールが作られているけれども…チェコからビールを取り上げたらその魅力は半減してしまう。ピルスナー・ウルケル以外にも米国のバドワイザーのルーツと言われチェスケー・ブドュヨヴィツェに本社を構えるブドヴァル社、元修道院を転用したプラハ市内最古の有名なビアホール ウ・フレクで出している黒ビール等 ビール大国の名に恥じない。ビールこそ秀逸だが、残念なことに食文化は余り発達しなかった地域と思われる。ビアホールで出される食事の多くは昔ながらの伝統的なチェコ料理だが、正直日本人の口に合うとは言い難い。海のない内陸国チェコの伝統料理=肉料理となり、魚料理を置いていないところも少なくない為 肉が食べられない人は、ベジタリアンメニューしか食べるものがなかったりもする。例えばチーズフライとか。

 チェコで美味しい料理に拘るなら ビアホールではなくきちんとしたレストランに行くことをお勧めする。但し評判の良いレストランの多くはフレンチかイタリアンか地中海料理、もしくはそれらのミックスしたモダンな創作料理で、チェコ料理専門店は滅多にない。モルダウ川沿いでプラハ城を眺められたり、逆にプラハ城側の丘の上から旧市街を見下ろすような立地の店も複数存在する。つまり食事と同時に景色も楽しめるというおまけ付きだから大抵は満足できてしまう。

 チェコを訪れるなら、暖かい季節が良い。冬は雪が降るし とにかく寒い。イギリスより南に位置してはいるものの、内陸性気候なので零下になることは、全くをもって珍しいことではないのだ。むろんビールを楽しむには暖かい季節が相応しいことは今更言うまでもない。但し冷房設備が普通にある土地柄ではない為 盛夏に行くと暑くて辟易させられる場合もあるから真夏の前後、春~初夏、もしくは晩夏~初秋が良い。暑い時期でも寒い時期でもない、暖かい時節が良いのだ。

 ところで「プラハの春」というと、2通りの意味がある。1つは旧ソ連・ロシアがプラハ市内に戦車を侵入させた紛争。もう1つは毎年恒例5月の音楽祭のことをさす。プラハの5月はまだ肌寒いことが多いけれども、日もかなり長くなって観光しやすい時期といえる。日本のGWに似た連休がヨーロッパではイースター休暇で、移動祝日の為 毎年変わるが 概ね3~4月となる。日本のGW同様この時期は各国ヨーロッパ人が入り乱れ観光地はどこも大混雑、イースターの時期にヨーロッパを旅行すると本当にゲンナリさせられる。その後の5月中旬~下旬はその賑わいも一段落、6月のバカンスシーズン直前の比較的静かに旅行できる時期でもある。何よりGW後は日本往復の飛行機代がグッと値下がりするという見逃せない大きなメリットもあるのだ。